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歴史本『黄門さまと犬公方』

4166600109黄門さまと犬公方 (文春新書)
山室 恭子

文藝春秋 1998-10
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かたや修史事業に力を尽くし理想の名君と讃えられてきた水戸光圀。こなた生類憐れみの令により稀代の暗君と罵倒される徳川綱吉。ほぼ同時代を生き、ともに三男坊でありながら首座に就くことになった両者なのに、後世の評価に天と地ほどの落差が生じるとは――。ふたりの運命を分けたものは何だったのか?
構想五年、史料の森に踏み入り手さぐりで見つけた真の姿が、三百年の時空を超えて、いま立ち上がる。
少し前に生類憐れみの令について調べていた事があり、その時この本を手に取りました。
日本人なら誰でも知っている正義の味方・水戸黄門こと光圀。一方で、生類憐れみの令なる奇怪な悪法を発布し人民を苦しめたバカ殿・綱吉。一般的なイメージとして対極にあるといえる2人。しかしその評価は、あまりにも単純過ぎるのではないか?長い年月を経て覆い隠されてしまった、彼らの真の人間像に迫ってみようという主旨の本です。
と言っても、一般人には敷居の高い堅苦しい内容では決してありません。わかりやすいのは勿論、まるでエッセイかブログを読んでいるかのような、軽ーい文体で綴られているのです。歴史書とは思えない文章に違和感を覚える方もいるかもですが、「専門書は特定の層しか読んでくれない。新書で気軽に読める体裁にすることで、光圀と綱吉の実像を広く知って欲しい」という、著者の願いがあるのではと私には感じられました。

前半は光圀について。そもそも、彼の名君伝説はいつどのように生まれたのか?を紐解いていくと、光圀が若い頃のある出来事が浮かび上がって来ます。その「美談」の裏に隠されていた、水戸家をめぐるお家事情とはーーといった内容です。
史料を駆使して伝説の不自然な点・矛盾点を突き詰め、原因を明らかにしていく行程は、まるで推理小説を読んでいるかのような面白さがあります。大胆な推論も、著者が東大の史料編纂所で膨大な史料に目を通した上で導き出したということで、説得力があるように思えました。
時代劇での現実味のないスーパーヒーローよりも、この本で描かれる人並みに悩んだり反発したり気を使ったりといった黄門さまの姿の方が、より親しみが湧くのではないでしょうか。

後半は綱吉。将軍に就任する過程から始まり、そこいらの学者よりも学問好きな性格、晩年に打ち続いた不幸、綱吉暗君説が広まった理由についてまでが紹介されています。
中でもメインとなっている生類憐れみの令(という名称の法令はなかったんですが)の検証では彼が同法に託した目的や、民衆への受け入れられ方、刑罰の実態などが、従来伝えられてきた認識とは異なっていたとわかり、まさに目から鱗です(*1)。

ただしいたずらに綱吉を名君と持ち上げているわけではなく、ある人物の死についての黒い疑惑や、完璧を求めるあまり生類憐れみの令が当初の意図とだんだんズレていく様子にも触れられています。
彼の生涯を一言で表すと「理想主義者の挫折」てな感じでしょうか。すべての改革が成功した訳ではないけども、その苦労にはもうちょっと目を向けてあげてもいいんじゃないかと思いました。

(*1)=「新説」を唱えたのは山室氏が最初ではなく、それ以前の出版である「生類をめぐる政治―元禄のフォークロア」(塚本学)、「将軍と側用人の政治」(大石慎三郎)などでも同様の見解がなされており、学説としては以前から提唱されていたようです。
また、山本博文氏は「徳川将軍と天皇」において、水戸光圀の家督相続問題についての山室説を批判しているとの事です。私は未読なので詳細はわかりませんが…。

Comment

2008.11.05 Wed 13:14  |  2人の判断基準

 影千代さん、こんにんちわ。
 水戸黄門でもそうですが、この2人はよく比較されて登場しますよね。庶民の生活実態を把握しているご老公と、庶民感覚が理解できていない綱吉。そしてそんな綱吉を利用し、ご老公を陥れようとする柳沢吉保。水戸黄門好きな人はこんな人間関係で理解しているんだと思います。
 現在、光圀と綱吉の判断基準になっている思想は朱子学であると思います。兄の子に家督を譲り、ご政道の規範を示した光圀と、兄の子を次期将軍にすることを躊躇した綱吉を日本人は『潔い光圀、強欲な綱吉』で判断しているんでしょうね。その根底には朱子学思想が存在していることは間違いないと思います。
 稚拙なコメントになりましたが、なにとぞご容赦の程を。

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2008.11.06 Thu 19:21  |  >jazzy-misakiさん

こんばんは。
朱子学は光圀、綱吉の2人とも熱心に取り組んでますね。
まあ徳川幕府の御用達学問ですから当然ですけど…。
朱子学の与えた影響については勉強不足なのですが、「大日本史」から派生した水戸学が、幕末の尊王攘夷思想の元となり明治維新に繋がっているのが、光圀神格化の一端を担った面もあるのかもしれませんね。
あと綱吉(と柳沢)の悪いイメージは、「忠臣蔵」の影響も多少あるのかな?と個人的には感じます。

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